筋電図をきれいに取るには

筋電図の信号品質にかかわる要因とは?

高品質の筋電図信号は、研究課題で成功を収めるために必要不可欠です。

複数のノイズ源が計測中の筋電図信号を汚染し、時にはそれを目視では簡単に判別できない場合があります。

これらノイズ源は信号をゆがめてしまい、筋電図の解釈に間違いを引き起こす可能性があります。

筋電図信号の品質に影響する主なノイズ源とは?

コンセントからの電源供給(50または60 Hz)、蛍光灯、および電子機器からの干渉(Line Interference)は、あらゆる環境に存在する電磁波から発生します。 一般的に、現代技術で設計された機器においては問題とはなりませんが、この干渉が筋電図の波形を汚染する場合があります。

Delsysテクノロジーで設計された筋電計を適切に使用すると、この干渉ノイズによる汚染が減少します。 また、EMGworks Acquisitionソフトウェアには、リアルタイムに信号品質をモニタリングする機能が搭載されており、筋電図計測時に干渉ノイズの存在を測定者にフィードバックします。

モーションアーティファクトは、対象とする筋の直上にある皮膚と筋電計の相対的な動きによって発生します。

これは、1)筋電計または身体への直接的な衝撃、2)筋電計が取り付けられている身体部分の急速な動き、3)筋収縮中の伸長・短縮に伴う筋体積の変化による、皮膚-電極間接点の化学的バランスの変化から生じる可能性があります。

モーションアーティファクトは、関節運動が生じるような動的な収縮、またはスポーツ動作に代表される激しい運動中に特に問題となります。

 

Delsys筋電計が採用している表面形状は、皮膚-電極間の接触を強固にする働きがあり、筋電図信号のモーションアーティファクトによる汚染を低減するよう設計されています。

さらに、Delsys筋電計システムは筋電図計測に最適なフィルターを採用し、モーションアーティファクトをさらに削減します。 20 Hzのハイパスフィルターで表面筋電図信号を処理すると、対象の筋からの筋電図信号の周波数成分を維持しながら、主な成分が低周波数に集中するモーションアーティファクトを削減できます。 詳細についてはJournal of Biomechanicsで公開された資料を参照してください。

筋電図信号の一部は、必ずしも対象の筋から記録されるとは限りません。それらは隣接する筋から筋電計に伝わた信号である可能性があります。 この「クロストーク」と呼ばれる信号は、対象筋からの筋電図信号に重畳され、結果としてデータの振幅とタイミングを歪めます。

Delsys筋電計は、筋電図信号の振幅を維持しながら、最適なクロストーク抑制機能を提供するために、査読済みの研究を通じて実証された電極形状と電極間距離で設計されています。詳細についてはJournal of Biomechanicsで公開された資料を参照してください。

筋電計が外れたり、筋電図信号の振幅が大きすぎると、一般に「クリッピング」と呼ばれる飽和現象(サチュレーション)が発生することがあります。


EMG signal showing regions where the amplitude is clipped as indicated by the arrows

これが発生した場合は、弾性包帯で巻くなどの方法で筋電計と皮膚との接触を確保するか、可能であればアンプの増幅率を下げるか、信号振幅を減らすために筋上の筋電計の位置を移動する必要があります。 Delsys筋電計システムの計測ソフトウェアEMGworks Acquisitionのリアルタイム信号品質モニタリング機能は、筋電図記録時にクリッピングが生じた際、測定者にフィードバックします。

生理的ノイズには心電図信号などが含まれ、生体内で電気信号を生成する筋以外の組織から発生します。


EMG baseline noise contaminated by heart rate

可能であれば、筋電計をノイズの発生源からより遠くに、適切に配置することで、これを減らすことができます。 電極を等電位面に合わせるように、つまり2つの電極がノイズ源から等距離になるように筋電計を回転させると、筋電図信号の生理的ノイズも減少します。

Delsys筋電計は、皮膚に最終的に配置する前に、筋電図信号の品質を確認するプローブとしても使用できます。皮膚上を移動させて筋電計の最適な位置と向きを特定し、生理的ノイズの影響を軽減した状態で測定を開始できます。

どうすれば高品質な筋電図信号を記録できるのか?

信号雑音比(SNR)は、筋電図信号の品質を評価する最良の尺度です。 これは、筋収縮時の筋電図信号と、筋が弛緩しているときに記録された不要な電気信号、つまり基線ノイズ(ベースライン)との比率を表します。

High Signal to Noise Ratio (SNR)

筋電図信号の大きさは、主に筋の収縮強度、目的の筋上の筋電計の位置と方向、筋電計の設計特性、皮膚と筋の間の脂肪組織の量に依存します。 基線ノイズの大きさは主に筋電計の技術設計と、皮膚-電極間接点の質に依存します。

信号雑音比が大きいほど、基線ノイズと筋電図データの識別の信頼性が高くなります。

高品質の筋電図計測を実現する最も直接的で効果的な方法は、高度なテクノロジーを選択して適切に使用することです。

Delsys筋電計は現存する製品の中で、最も先進的で有用なセンサーテクノロジーを提供し、筋電図信号から不要なノイズ源の大半を排除します。 また、専用ソフトウェアEMGworks Acquisitionは、Signal Quality Monitorツールによって記録中の筋電図信号の品質をリアルタイムで監視し、より品質を高めるための情報を提供します。

 


Delsys筋電計は、高品質な表面筋電図信号の記録を追求し、20年以上にわたる研究成果を用いて設計されています。 Delsys筋電計に組み込まれた各機能および仕様は、筋電図信号検出の信頼性、堅牢性、および品質を大幅に向上させることができます。

Trignoワイヤレスセンサーには、双極誘導(2つの電極で得られた電位の差分を記録する手法)で用いる電極ペアに加えて、安定した皮膚との接触を確保する2つのリファレンス電極が含まれています。 この独自の設計により、筋電計は皮膚表面で生じた外乱に瞬時に反応、様々なノイズ源が筋電図信号の品質に与える影響を低減します。

さらに、生理的な筋電図信号を歪ませることなくモーションアーティファクトを減衰させる20 Hzハイパスフィルターを組み込んでいます。

これは、最近の研究出版物として掲載されています。次の論文を参照してください。De Luca et al.: Filtering the surface EMG signal: movement artifact and baseline noise contamination., Journal of Biomechanics, 43(8): 1573-1579, 2010.


筋電計の信号検出の選択性は、電極面積と2つの電極間の距離に依存します。 電極面積と電極間距離が大きいほど、センサーが信号を検出できる領域が大きくなり、結果として筋電図信号の振幅が大きくなります。 ただし、ゲル型の電極に代表される不必要に大きな電極面積と電極間距離は、対象筋より深層に位置する筋を含む、隣接する筋からのクロストークを増加させます。 Delsys筋電計は1mm幅のバー型電極を10mmの電極間距離で組み込んでいます。これは、査読済みの研究にて実証されており、筋電図信号の振幅を維持しながら最適なクロストーク抑制を提供します。

こちらは次の論文を参照してください。De Luca et al.: Inter-electrode spacing of surface EMG sensors: reduction of cross-talk contamination during voluntary contractions., Journal of Biomechanics, 2011.
電極間の距離は固定されており、測定の再現性と一貫性を保証します。 一定距離に固定された電極でない場合、電極間の距離が動作時に変化する可能性があり、その結果、筋電図信号の波形とその周波数成分に望ましくない変化が生じます。

Delsys筋電計の起伏のある表面は、バー型電極と皮膚との接触を強固にし、筋電計の皮膚への接着を強化するように特別に設計されています。

詳細については次の論文を参照してください。Roy et al.: Electro-mechanical stability of surface EMG sensors., Medical & Biological Engineering & Computing, 45: 447-457, 2007. およびDe Luca et al.: Sweat test for the electromechanical stability of the EMG electrode-skin interface., Proceeding of the International Society for Electromyography and Kinesiology, 2004.
Delsys筋電計専用ソフトウェアEMGworks Acquisitionには、筋電図の信号品質についてリアルタイムにフィードバックを提供するモニタリングツールが含まれています。実験中いつでも、信号品質が低下した場合に視覚的な警告が表示されます。筋電図信号の信号雑音比、基線ノイズ、および電磁波干渉、クリッピングノイズについて、信号品質のリアルタイム表示が利用可能です。 信号品質を改善するための提案も提供されます。

この独自のモニタリングツールは、筋電計を筋に配置する際の補助、また記録中の信号品質のリアルタイムフィードバックに使用できます。

筋と筋電計の位置関係は、良好な信号雑音比を得るための最も重要な要素です。適切な筋電計の配置により、生理的筋電図信号を最大化し、隣接する筋からのクロストークをも最小化できます。

Sensor location筋電計の最適な配置場所は、通常、筋の正中線上で、筋腱移行部と神経支配帯から遠く離れた位置です。取り付ける際には、Delsys筋電計にデザインされている矢印の向きが筋線維の方向(おおよそ筋の走行方向)と平行になるように取り付けます。

筋の正中線では、筋繊維の直径が大きく、一般に振幅の大きい筋電図信号が記録できます。対照的に、筋電計を筋腱移行部の近くに配置すると、筋電図信号の振幅が減少します。これは、腱に近い場所では、筋線維が薄く、細くなり、数が少なくなるためです。 繊維径が小さいほど、振幅の小さな活動電位が皮膚表面では記録されます。また、この領域では筋が物理的に小さく、筋電計を正確に配置し、隣接する筋からのクロストークを回避することが困難になります。神経支配帯については、この領域を挟んで活動電位が反対方向に伝播し、筋電計で記録する際にキャンセルされて減衰する可能性があるため、可能な場合は領域を回避する必要があります。

筋線維は、通常、筋内の長軸方向に沿って配置されます。 その結果、電気的活動は主に筋の長軸に沿って伝播します。各Delsys筋電計の表面には矢印がデザインされていて、この矢印が筋の長軸と並行になるように取り付けると、バー型電極の特性を最大限発揮できるように設計されています。

Delsys表面筋電計の大きな利点は、最終的な配置の前に、対象の筋上の適切な配置場所を探すプローブとして使用できることです。 筋を収縮させて筋電図信号を取得し、品質のリアルタイムフィードバック機能を使用して信号品質を確かめながら、筋電計の位置を変更することで、良質な信号を取得できるように配置することができます。

筋電計を使用する際の準備として、対象筋上の皮膚表面をアルコール綿で拭いてください。 乾燥肌の人など、より過酷な状況では、サージカルテープを取付け部位に繰り返し貼って、ある程度古い角質を取り除くことができます。

筋電計は、電極と皮膚の間の良好な接触を確保するために、Delsys筋電計の専用両面テープを使用してしっかりと取り付けられる必要があります。 他の筋電計で一般的に使用されているゲル電解質の使用は推奨されません。 Delsys筋電計は、「乾式電極」として使用するように設計されています。

(推奨まとめ)きれいな筋電図を計測するために

  • 筋電計は、高度なテクノロジーで設計された、10mm以下の固定電極間距離を有するものが望ましいでしょう。
  • リファレンス電極を有する筋電計を使用し、機器と対象者が確実に接続されていることを確認してください。
  • 計測周波数(サンプリングレート)は少なくとも1000Hz以上であることが望ましいでしょう。
  • アンプの増幅率は1000倍を標準とし、計測の際は信号にクリッピングがないことを確認してください。 もし発生した場合は、筋電計とリファレンス電極が適切に接続されていることを確認します。改善しない場合は増幅率を下げるか、筋電計を再配置して、信号振幅を下げてください。
  • バンドパスフィルターは、スロープ12dB/octで設計された20-450Hzのバタワース(Butterworth)型フィルターが、一般的な表面筋電図の利用に適しています。
  • 周囲に強力なモーター等、強い電磁波や交流電源が存在しないことを確認してください。
  • 事前の皮膚処理として、過度の体毛を短くするなどして取り除きます。筋電計と皮膚の接触を改善するためにアルコール綿で皮膚をきれいにしてください。 必要に応じて、サージカルテープで古い角質の層をはがします。
  • 筋電計は、筋腹の中央に配置し、神経支配帯と筋腱移行部、および生理的ノイズの発生源から離し、電極を筋繊維と平行に配置します。
  • 筋電計と皮膚は適切な方法で確実に接触固定します。

より詳細な情報は、次の資料を参照してください。

  • De Luca CJ: The use of surface electromyography in Biomechanics in Journal of Applied Bomechanics, 13: 135-163, 1997.
  • Basmajian JV and De Luca CJ: Muscles Alive (5th edition), Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 1985.
  • Delsys Technical Note 101 EMG Sensor Placement
  • Delsys Webinar What you need to know to properly detect and use the surface EMG signal

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